おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「ちぃ、ソースが顔についてる」
「え、どこ?」
「ここ」
香月は千春の右頬についたソースを親指でこそぎ取ると、そのままペロリと舐めた。艶めかしい舌の動きを間近で目の当たりにし、千春の心拍数が上がる。あの唇が千春を喜ばせ、惑わせるのだった。
二人は完成したカルボナーラとサラダをテーブルに運んだ。初めての共同作業による晩餐の始まりだ。
「んっ!カルボナーラ美味しい!」
「ちぃの作ったサラダも美味しいよ」
カルボナーラは香月の得意料理だ。千春が高校受験で香月に勉強を教えてもらっている時、決まって夜食はカルボナーラだった。太るから他のメニューにして欲しい思ったこともあるけれど、この暴力的な美味しさにはとうとう敵わなかった。
夕飯を完食し食後のお茶を飲んでひと心地つくと、千春はいそいそと食器を洗い、スマホと鍵を手に取った。
「じゃあ、私はそろそろ……」
「どこに行くつもりだ?」
「自分の家だけど……?」
「ちぃの家はここだろ?」
「そりゃあそうだけど……」
今日からこの家があなたの家ですと言われたって、千春の持ち物の多くはまだ運びきれていない。不便な思いをするくらいなら、歩いて三十秒の自分の家に戻った方が早い。