おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「なんか昔の頃を思い出すな。ちぃはしょっちゅう俺の部屋に来て勝手に寝てたよな」
高校生になると香月は部活やら塾やらで帰りが遅くなることが多くなった。千春はこっそり家を抜け出しては、香月の帰りを部屋の中で待つようになったのだ。
「なんで来なくなったんだっけ?」
「……香月くんの彼女と鉢合わせしたから」
待ちくたびれた千春がベッドで寝こけていたところ、たまたま香月の家に遊びにやって来た彼女と鉢合わせしたことがあった。
家族でもない隣家に住む小学生が自分の彼氏のベッドで寝ていたら、さぞや驚いたことだろう。
その上、香月が勝手に忍び込んできた千春を叱るどころか庇いだしたので、二人の痴話喧嘩は泥沼の様相を呈した。最終的に、香月は興奮した彼女から三行半と立派な平手打ちをもらった。
この出来事は千春にとって、香月との接し方を見直すひとつのきっかけになった。
香月には香月の世界があり、千春が土足で踏み荒らすようなことはあってはならない。
安易に縋ることがないように、千春は意識的に香月と距離を置いた。
千春のこの行動は思春期と重なったことも相まって、周りからはすんなりと受け入れられた。
そして、香月と距離を取ったことによりできた心の穴を埋めてくれたのが黄金塚歌劇団だった。
カップルの諍いに巻き込まれことを聞き及んだ珠江は、気分転換にと落ち込む千春を観劇に誘ったのだ。
その時に初めて見た冬空組の公演が千春の人生を決定的に変えた。