おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜


「千春ちゃん、聞いてる?」
「え、あ?すみません……。なんでしたっけ?」

 仕事中に意識を飛ばしていた千春は、由里から肩を叩かれようやく正気を取り戻した。

「ぼうっとしてどうしたの?なにかあった?」
「いえ、大丈夫です」
「さては、香月先生と暮らし始めて浮かれているな!?」
「あはは……」

 ことあるごとに香月との結婚をからかう由里に、千春は作り笑いで答えた。から元気でも笑わないよりはマシだ。

(浮かれるどころか、その逆ですよ……)
 
 千春は同居から時が経つにつれ、徐々に落ち込み始めていた。

 香月と暮らし始めて早二週間。
 引っ越し以来、千春は香月と一緒に寝るようになったが、寝落ちした引っ越し当日以降も夫婦の営みが行われることは一切なかった。
 最初はたまたまだと自分を慰めていたけれど、二週間もすれば香月にその気がないことが分かってくる。
 これには千春もへこんだ。

(そんなにそそられないのかな……)

 男性が求める女性らしい身体つきではないかもしれないが、それなりに気を使っているつもりだったのに。
 美の師匠である芽衣からもらった入浴剤を使ったり、すすめられたヘアオイルを塗ったりすることにそろそろ虚しさを覚え始めている。

(私じゃダメなの……?)

 同居をきっかけにして何かが変わるのではないかと期待していた心が急速にしぼんでいく。

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