おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「うわあ……。雪でも降りそうな天気」
クリニックの正面入口のガラス扉越しに外を見ると、今にも雪が降り出しそうな曇天だった。
午後の診療受付時刻が終わる五分前。最後の患者が診察室に入っていくと待合室は無人になった。
暖房は効いているが、人がいないと待合室の中は冷え冷えとしている。心をほっこりさせるものは待合室の隅に飾られた千春の身の丈ほどのクリスマスツリーしかない。
もう誰もこないだろうと、千春がチカチカと定期的に光る電飾のスイッチを消したその時、正面入口の扉がゆっくり開いた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
千春は身体を硬直させながら、辛うじて挨拶を返した。まだ受付時間内なので本来なら診療受付をするところだが、来院したのは患者ではなかった。
(なんで真田さんがクリニックに……?)
クリニックにやってきたのは香月の元同僚、真田だった。
「ああ、あなた。香月の……」
千春から遅れること数秒、真田も待合室にいた事務員が香月の妻だということに気がついたようだ。
「悪いけどここで待たせてもらってもいいかしら?この後、香月と一緒に学会の打ち合わせに行く予定なの」
「あ、はい……どうぞ」
千春から言質をとった真田は、受付カウンターの前にあるソファに陣取った。
(そうか。真田さんと一緒なのか……)
香月に学会運営のヘルプが回ってきたのは及川の依頼だったはず。よく考えれば現役の医局員である真田が同じように学会運営に携わるのは当然のことだった。