おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「お先にお昼休憩行きますね」
「行ってらっしゃい」
午前の診療が終わると、二時からは事前予約制の乳幼児健診の時間となる。四時からは午後の診療が始まる。
千春の休憩時間は午後一時から三時だ。いつもなら家まで戻って昼食をとるが、この日は香月から頼まれていた婚姻届を取りに行くため区役所へと向かった。
区役所はクリニックの真裏にあるので、それほど労力はかからない。婚姻届は戸籍係のある二階でもらえるようだった。
(これが噂の婚姻届かあ……)
ドラマや映画で何度も見かけたことはあるが、実際に目にするのは初めてだった。まさか茶色で縁取られているこの薄っぺらい紙をもらいにくる日がやってくるとは思ってもいなかった。
千春は婚姻届をケースから一枚取り出すと、バッグの中にしまった。区役所内にあるカフェで昼飯を済ませ、休憩時間を早めに切り上げクリニックへと戻っていく。
乳児健診の患者は既に帰った後で、香月はロッカールームで遅めの昼食をとっていた。
「取ってきたよ、香月くん」
「わざわざ悪かったな」
香月はカップ麺を食べ終わると千春から婚姻届を受け取り、まるでメモをとるかのようにさらさらと必要事項を埋めていった。
「ほら、ちぃも」
ボールペンを渡された千春はおずおずと婚姻届に自分の名前と住所を書いた。