おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「偶然だね?今日はひとり?香月先生は?」
「あ、今日は学会で出掛けていて……」
「そうか、小児心臓外科学会の論文発表って今日だったね」
プライベートの時に仕事関係の人に遭遇すると気まずいのはなぜだろう。
「それじゃあ、またクリニックで……」
「あ、待って!」
世間話もそこそこにそそくさとその場から立ち去ろうとする千春をなぜか仙堂は引き止めた。
「泣いてるみたいだったから思わず声掛けちゃったんだけど、何かあったの?」
何か、なら確実にあった。千春は数日前、香月に離婚を突きつけた。そして今なお、叶わぬ想いに葛藤している。
「もしかして、香月先生のこと?」
図星を指され視線を逸らした拍子に結婚指輪が視界に入る。香月が買ってくれたアクアマリンが埋め込まれたお揃いの指輪。香月はどんな気持ちでこの指輪を買ったのだろう。……好きでもない千春のために。
そう思うと目からダパーっと涙が溢れていく。
「私達、本当は結婚するべきじゃなかったんです……!」
「……俺でよければ話ぐらい聞くよ?」
道の往来で泣き出した千春に仙堂は優しかった。