おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
二人は仙堂の行きつけだというレトロな喫茶店に入った。マスターが厳選したコーヒー豆をじっくり焙煎したブレンドコーヒーが人気らしいが、千春はまだカップに口をつけられないでいた。
「まさか、加賀谷さんが香月先生とそんな理由で結婚したとは……」
仙堂は話をしているうちに冷めてしまったコーヒーをゆっくりと啜った。
家族にも職場の誰にも言えなかったことを、仙堂には洗いざらい話してしまった。ひとりで考えていても煮詰まるばかりで、本当は誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「本当にコガネジェンヌのブロマイドが欲しくて結婚したの?」
千春はコクンと頷いた。救いようのないヅカオタですみませんと、詫びたい気持ちでいっぱいだ。
「でも、相手が香月くんでなきゃ結婚までしません」
「ま、そりゃあそうだよなあ」
千春だってブロマイドがもらえるなら相手が誰でもいいというわけではない。相手が香月だからこそ、多少性急ではあったが結婚を承知した。
「香月先生とは加賀谷さんが生まれた時からの付き合いなんだっけ?」
「はい……」
「付き合いが長いから何もかも知っているつもりになるのは仕方ないけど、ちゃんと話してみないとわからないこともあると思うよ?」
「洋介先生にもそう言われました」
「お、さすが洋介先生。亀の甲より年の功ってやつだね」
千春はコーヒーに映る自分の顔をじいっと眺めた。なんて情けない顔をしているの?