おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
「聞くだけ無駄なんですよ。結局、私は香月くんにとって世話の焼ける幼馴染でしかなくって……。彼から愛されていなかった……」
愛されていなくとも夫婦を続けるという道もあるだろうけど、それは茨の道だ。千春には無理だ。
「ふーん……。そうなんだ」
仙堂の達観したような相槌が静かな店内に妙に響く。
「あのさ……傷心の今、こんなことを言うのはアレなんだけど……。離婚したら俺にもワンチャンある?」
「え……?」
「実は俺、柳原こどもクリニックの担当になる前から加賀谷さんのことを知ってたんだ」
千春は首を傾げた。
千春の記憶が正しければ仙堂と知り合ったのは、前任の営業担当と引き継ぎの挨拶にやって来た年初のことだ。それ以前に二人に接点はないはずだ。
「聖蘭医科大病院の小児病棟に入院している子供たちにボランティアで絵本の読み聞かせをしてたでしょ?その場に俺もいたんだ。甥っ子がちょうど入院しててさ」
ようやく、点と線が繋がった。
確かに仙堂の言う通り、千春は大学生の時、洋介と香月に頼まれ小児病棟で二週に一度読み聞かせのボランティアをしていた。というのも、千春は大学入学後もサークルには入らず、授業が終わると即帰宅し推し活に勤しんでいたからだ。傍目から見たら暇にしか見えなかったので、白羽の矢が立ったのだと思う。