おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「真田、たどころかなちゃんを覚えているか?」
「かなちゃん?確か三年ぐらい前に及川先生が執刀された……」
「そう。チアノーゼ性の先天性心疾患。手術は成功して、術後の経過も問題なし。手術から一ヶ月後に無事に退院した。でもな、一年前に肺炎で亡くなったんだ。急変したときにはもう手遅れだったそうだ。親御さんがわざわざ知らせてくれたよ」

 元患者が亡くなったと香月から聞かされた真田は息を呑んだ。

「その時痛感したよ……。たとえ心臓が治ったとしても、あの子達は普通の人なら治るような病で亡くなってしまうんだ。俺たちが携われるのは人生のほんの一部だけだ。その先の人生の方が圧倒的に長いのに大学病院を退院してしまったら、充分なフォローができなくなる」

 香月の言うことは正しい。千春自身も定期検診以外で大学病院に行くことは滅多にない。
 小児循環器内科の専門医は数が少ない。近所の小児科に心疾患に精通している医師がいることは稀だ。
 
「柳原こどもクリニックでは、心疾患のある子供達が安心して日常生活が送れるよう、退院後のフォローを精力的に行っている。患者さんの許可を得た上で、聖蘭医科大の小児心臓外科、小児循環器内科との情報連携を進めているところだ」

 ああ、やっぱり。千春は自分の考えが間違っていなかったことに安堵した。
< 155 / 171 >

この作品をシェア

pagetop