おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「あー疲れた……」

 ドレスサロンから帰宅すると、千春はベッドに倒れ込んだ。
 結婚指輪とドレスを決めるだけで大仕事だ。フォトウェディングの式場での打ち合わせ、ウェディングドレスの最終試着、出来上がった指輪も取りに行ったりと、休診日が軒並み結婚関連の行事で潰れていく。

 後回しにしているが、銀行やクレジットカードの名義変更の手続きだってしないといけない。これからの多忙な日々を思うと、今日はゴルステを見る気力も湧かない。

 写真一枚撮るだけでこの騒ぎ、本格的に結婚式を挙げるとなったらこの比ではないはずだ。

「世の中の花嫁さん全員を尊敬するわ……」

 時間と労力を際限なく注ぎ込めるのは愛がなせる業なのだろうか?
 黄金塚歌劇団の作品の中には愛を主題としたものが数多ある。
 時に情熱的に愛を語り、時に冷酷に愛に裏切られるヒーローとヒロインにはいつもハラハラドキドキさせられる。

 まさか自分が結婚ごときに踊らされる日が来ようとは思わなんだ。惚れた腫れたがないだけマシなのか。いくら座学で学ぼうとも、自分のこととなると途端にピンとこない。

「お風呂でも入るか……」

 明日は仕事だ。休診日明けは混雑するから、さっさと寝てしまいたい。
 風呂場に向かおうとベッドから跳ね起きた拍子に、床に置いていた紙袋が倒れ中身が散乱してしまった。


「あ」

 千春ははあっとため息をつくと、書類をひとつひとつ拾い集めた。紙袋の中身はドレスサロン関係の書類やカタログだ。拾い集めた紙の束の中に男性用のタキシードのカタログあり、千春は更に大きなため息をついた。香月に渡したつもりだったが、千春の方に混ざっていたらしい。

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