おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「……もしかして旦那さんって柳原ジュニア?」
「はい……」

 十年以上前に大学病院を辞めた洋介だが、未だに大学病院の方に顔を出すこともある。かねてから洋介と付き合いのある医師は二人を呼び分けるために、香月のことをジュニアと呼ぶことが多い。

 佐久間は洋介とも香月とも付き合いがあり、千春が柳原こどもクリニックで働いていることを知っている。

「ああ、それなら余計に心配いらないね」

 佐久間に悪気はないのだろうが、太鼓判を押されてめちゃくちゃ恥ずかしくなる。聞くんじゃなかったと後悔が頭をよぎる。

「千春ちゃん、君の主治医として最後にひとつだけ言ってくおくよ。性交は問題ないけれど、子供についてはよく話し合った方がいい。妊娠・出産は心臓に大きな負担がかかる。万が一のことも十分ありえるからね」
「分かりました」

 先ほどとは打って変わったような真剣な眼差しに、思わず背筋が伸びる。
 
「そんなに暗い顔しないで。リスクはあるけど絶対に無理ということでもない。実際、君と同じ先天性心疾患の患者さんでも元気に赤ちゃんを産んでいる人はいるよ。これからも何かあったら直ぐに教えてね。ま、ジュニアがついているなら心配ないか!じゃあ、また半年後に!」

 佐久間は診察の最後にハハハと愉快そうに笑った。
 
「ありがとうございました。失礼しました」
 
 千春は軽く頭を下げ、佐久間のいる診察室を後にした。

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