おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

 循環器内科の診察室を出て、会計課でお会計を済ませた千春は出口に向かわずその足で南棟に向かった。

 案内板も見ずに歩けるのは幼少期から何度もお世話になっているからだ。病院内は千春にとって庭も同然だった。
 
 千春の心臓は生まれつき普通の人とは形が違うらしい。
 心臓は左右の心房と左右の心室、肺と全身を繋ぐ動脈と静脈、そして血液の逆流を防ぐための弁膜でできている。
 千春の心臓はこれらに構造的な疾患を抱えていた。

 日本で生まれる新生児の内、百人に一人の割合でなんらかの心疾患を抱えていると言われている。幸いなことに千春は生まれる前から心臓に疾患があることがわかっていたため、生まれた直後から適切な治療が受けられた。乳児期に受けた二度の手術のおかげで、千春は今日まで生きながらえている。

 執刀医は当時、聖蘭医科大学付属病院で小児科部長を勤めていた洋介だ。

 ただ、二度の手術は不整脈を抑え、全身への血流を促すための手術であり、根本的な心疾患そのものを治すものではない。
 つまり、千春は普通の人よりも歪な心臓を生涯抱えて生きていかなければならない。

 まあ、それでも今のところ日常生活に支障はない。千春の場合は術後の経過がすこぶる良く、服薬も不要だ。もちろん、心臓に負担がかかるような運動は避ける必要があるし、パイロットやドライバーなど身体要件のある職種には就けないが、これといった不満はない。

 結局、生まれたその時に神に与えられたカードで勝負するしかない。自分の身体のことを誰かのせいにして、いじけている暇はない。人生そうそう悲観してばかりではいられないのだ。
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