おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
千春は循環器内科のある西棟を抜け渡り廊下を歩き、南棟にある小児科に向かった。
ナースステーションにいた顔見知りのナースが千春を見て、顔を綻ばせる。
「あら、千春ちゃんじゃない。今日はどうしたの?」
「定期検診の日だったんです。及川先生にもご挨拶しようかと思って」
「先生なら部長室にいると思うわ」
彼女は千春が小児科に通っていた頃からの付き合いだ。千春がお世話になっていた頃はまだ新人だったか、今では立派な副看護師長となっていた。
千春はナースステーションとリネン室を通り過ぎると、小児科部長室の扉をノックした。
「どうぞ」
「及川先生、こんにちは」
「おっ!久し振りだな。」
「はい」
香月の父が病院を辞めた十年前、新たに小児科部長に任命されたのが及川だ。
及川は香月の元指導医であると同時に、十八歳になり小児科から卒業するまで千春の主治医を務めていた。
パッと見はもっさり頭で無精髭の中年のおじさんそのものだが、小児心臓外科の専門医として何人もの子供の命を救ってきたスーパードクターだ。とあるテレビ番組で密着取材を受けたこともある。