おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜

「例の幼馴染と結婚するなんて正気?」

 医局にたどり着く前に聞き覚えのある声が鼓膜を揺らし、その場に立ち止まる。
 千春は咄嗟に廊下の角に隠れた。誰もいない廊下で立ち話をしていたのは、香月と白衣を着た女医だった。
 彼女は険しい表情で仁王立ちし、香月を睨みつけていた。

「俺が誰と結婚しようと関係ないだろう?」
「あの幼馴染のお世話をしたいがために医者としてのキャリアを潰す気なの?」
「大袈裟だな」 
「貴方が大学病院を辞めたこと、私はまだ納得していないから」
「納得してもらう必要はない。俺は俺がやるべきことをするだけだ」

 千春との結婚を反対するような物言いにギジリと心が軋む。

(まずいところに来ちゃった……?)

 千春は香月と言い争っている女医の顔と名前を知っていた。
 香月と同じ聖蘭医科大学を卒業し、その後は同僚として小児科に勤務していた真田凛(さなだりん)だ。

 もっと端的に言えば、医学生時代の香月の元カノだ。

 長身な上に香月と並んでも見劣りしない目鼻立ちの整った美人の真田が、香月の家に頻繁に出入りしていたのを千春はよく知っていた。

 千春の見立てだと付き合い始めてから半年ほどで破局したようだが、医大卒業後も友人としての付き合いは続けられていた。
 まさか真田も小児科を専攻するなんて。単なる偶然にしては出来すぎていると、千春は常々思っていた。

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