おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
廊下の角からこっそり顔を覗かせ二人の様子を窺っていると、千春の視線に気がついた香月と目が合った。
「ちぃ、診察は終わったのか?」
「あ、うん……」
おずおずと前に進み出ると、真田に鬼のようにガン見される。気の強い美人は眼力も強い。身の置き場に困った千春は真田に会釈をした。
妻として「いつも夫がお世話になっています」と一言添えるべきか。図らずも妻の座を射止めてしまった千春がそんなことを言えば、なんの嫌味だと思われてしまうだろうか。迷っているうちに、香月に肩を抱かれる。
「一緒に帰ろう。車で来てるから」
「香月!」
「真田が何と言おうと俺は大学病院には戻るつもりはない」
香月はそうきっぱり告げると、真田のことを振り返りもしなかった。
そのまま病院から出て駐車場までやってくると、車に乗るよう促される。
「あの……揉めてたみたいだけど大丈夫なの?」
「真田と顔を合わせると大体あの話になる。いつものことだから平気だ」
(それ、大丈夫って言わなくない?)
千春は心の中で突っ込みをいれながら、助手席に身体を滑り込ませシートベルトを締めた。