十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
行こうかと促されて、ようやくその眼差しから解放された私は殿下に連れられるがまま歩いた。
殿下の、今の言葉は一体……。
破滅エンドへと導くというそのままの言葉だとしたら、また殿下に――愛している人に殺される。
絶対にそれだけは避けたいのに、今はこの手を離したくない。矛盾した感情を抱きながら、準備された馬車に乗った後も殿下は私の手を離さなかった。
バクバクと鳴り止まない心臓の音を掻き消す揺れる馬車の音は、会話は特に何も無くて静かな私達の間に流れていく。
殿下は何も喋らないけれど、手に伝わってくる温もりが何かを語らっているようでそれだけで嬉しくなった。
「……時間は沢山ある。じっくりとだな」
「何か、仰いましたか?」
「いや。何でもない」
窓の外を眺めたまま、答えた殿下の顔が窓ガラスに反射して見えた。
少し強張った表情に、鋭い目つきは今まで私に向けられていた表情そのもの。
ああ、やっぱりそうだろうとは思った。今回の異例な事態に何もないわけなんてない。
きっと婚約者としての役目を果たしなさいとでも、国王陛下に言われているだけで、優しい言葉も行動も作り物。
殿下と一緒にはなれないことは、もう十二回も経験して来て思い知ったことだ。今更ガッカリすることもない。