敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
……だから、スキを見せるなって?
わざわざキスを未遂に終わらせて、体を張って教えてくれたわけね。

この状況で、そんな心配してくれるの?

私は世間一般的な男なんてどうでもよくて、優介とふたりきりなことに心底ドキドキしているのに。
これじゃあボディーガードでもナイトでもなく、もはや保護者だ。

優介にとって私は、ふたりきりになれば取り乱すくらいドキドキして、心臓が痛くてはち切れそうになるような相手じゃないのね。

「疲れたから先に休むね!」

勢いよく身を翻すと、ベッドにダイブして布団に潜り込む。
しばらく布団越しのすぐそばに優介の気配を感じたけれど、やがて洗面所に向かう足音が耳に届いた。

唇をギュッと強く結ぶと、じんわりと鉄の味がした。

『俺に、変な気を起こされたら困るでしょ?』

困らないなんて正直に答えたら、優介はどんな顔をするのだろう。

うまく想像できなかった。
浮かんでくるのはいつもの掴みどころのない、澄ました笑顔。

これまで二十五年間も続いてきた私たちの関係が、今後変わることは期待できないだろう。
優介は私に恋愛感情などないと、今日でじゅうぶん思い知った。

私の持て余すほどの優介への気持ちを昇華するには、どうしたらいいの……?

布団の中で睡魔に襲われ意識が遠のくまで、漠然と考えていた。
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