敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
2 秘書の本心
シャワーの音が微かに響く部屋の中で、俺はベッドに腰を下ろし文字通り頭を抱えていた。

濡れたワイシャツが肌にまとわりつく感触が気持ち悪い。

今すぐ脱ぎ捨ててしまいたいが、さすがに我慢しなくてはと自分をセーブする。
シャワーを終えて戻ってきた珠子が半裸姿の俺を見れば、おそらく動転し、素っ頓狂な声を上げるだろう。

ホテルの部屋をひとつしか取れなかったと俺が告げたときの顔面蒼白っぷりを見れば、想像に容易かった。

まさか珠子とここで一夜をともにすることになるなんて……。
ホテルに着いてからずっと、取り乱すくらいドキドキして、心臓が痛くてはち切れそうだった。

どうするんだよ、俺……。
いつものように冷静でいられるか、まったくもって自信がない。あいつのことになると俺は殊更弱いのだ。

そんな俺と珠子との出会いは保育園の頃。
ギャンブル依存症で暴力的な父から逃げるように離婚した母を、幼なじみで仲良しだった珠子の母親が救ってくれた。

住む部屋を用意し、当面の生活費を援助してくれて、仕事まで斡旋してくれた。
珠子の両親がいなければ、俺と母は行き倒れでいたかもしれない。そう考えると、俺は今でも茅原家に頭が上がらない。

珠子と俺は出会ってからまるで兄妹のように育ち、なにをするにも一緒だった。
それが当たり前だと思っていたし、なにより珠子と過ごすのは楽しかった。

珠子はかわいらしい顔立ちで、立ち居振る舞いは華やかだけれど、好奇心旺盛でわりと活発な性格をしている。
だから公園の遊具も虫取りも、ひとりより珠子と一緒に遊んだ方が楽しかった。

珠子が小学校になかなか慣れず、不安を抱えていたとき、俺は母から『あなたは珠子ちゃんのそばにいて、なにかあったら守ってあげて』とよく言われていた。

彼女を守り、そばにいるのが俺の役割なんだと、心に決めて実行しようと決意した。
それは母に言われたからだけではなく、自分でそうしたいと思った。
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