敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
珠子と離れると、心臓が欠けたように苦しい。
一挙手一投足を見逃したくない、という気持ちを抱いていた。

それなのに、中学年に進級した頃。
クラス替えがあり、珠子は男女数人グループのやつらと仲よくなった。あだ名で呼び合ったり、休み時間にドッチボールをしたり。

珠子が俺以外のやつらと距離を縮めていく様子を見るのは、心底おもしろくなかった。

だから一度、休み時間に珠子から『優介も一緒にドッチボールをやろう』と誘われたとき。

『うるさいな、やらないよ!』

大声で拒んでしまった。

母が知れば、ビンタ一発じゃ済まされないであろう所業。
当時はなぜこんなにイライラするのか、子ども心に判然としなかったが、楽しそうに珠子と遊ぶほかの男へのヤキモチだった。

読んでいる本から目をそらさない俺の様子を、珠子はしばらく見つめた後。

『優介はドッチボールの気分じゃなかったんだね。無理に誘ってごめん。でも、はっきり教えてくれてありがとう』

ぺこりと頭を下げ、やわらかく微笑んだ。

優介の気持ちを考えなくてごめんねと続け、笑顔を俺に向けたのだ。

そこでもう、つまらない意地を張るのを止めた。心の狭い自分が恥ずかしくて、こいつには敵わないと思った。

素直で優しい珠子を独り占めしたいと思う気持ちが恋だと自覚したのは、それからもう少し後になってからだけれど。
自分で言うのもなんだが、俺の珠子に対する執心の歴史は引くほど長い。

それからずっと惚れているので、その後ほかの男が近づいてこようもんなら徹底的に邪魔をした。
珠子のことをかわいいと噂している男子がいれば睨みをきかせ、実際に接近するやつは呼び出して少し脅かしてやる。

珠子が俺以外の男のものになるなんて考えられない。
だからこそ自分を鍛え、徹底的に過保護に接し、守ってきた。
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