敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
「茅原社長、中学で一緒だった奥口真希です。覚えていらっしゃいますか?」

彼女の言葉に、今度は私が凝視する番だった。

探るようにこちらを見つめる表情を見返していると、中学の制服を着たやや幼気な面立ちの彼女がぼんやりと頭に浮かんだ。

奥口真希さんは、たしか一年のとき同じクラスだった。

卒業以来会ってなかったけれど、当時からショートカットでスポーツが得意で、かわいらしかったと記憶している。

まさか仕事で同級生に会うとは、驚きだ。

「覚えています。お久しぶりですね、奥口さん」
「本当にお久しぶりですね! ミスユーは茅原さんのお父様のブランドですもんね。お会いできてうれしいです」

両手を合わせて笑顔を弾けさせる彼女を前にして、私は気づいた。
私と同級生ということは……。

「沖田くんだよね! すごい、ますますイケメンになっててびっくりだよ〜!」

奥口さんは私に対するよりも砕けた口調で言うと、優介を見た。心なしかぽってりと頬が紅潮しているように見える。

「恐縮です」

奥口さんの興奮具合とは対照的に、優介は営業スマイルを披露し抑揚なく言った。

……完全に覚えていないな。

「同級生だなんて奇遇ですね! 立ち話もなんですから、こちらへどうぞ。懐かしい思い出話もあるでしょうし」

偶然の再会を歓迎した桜木社長に促され、私と優介は応接ソファに移動した。

途中、大理石の床でヒールが滑り、よろけた私の肩を優介が支える。

「珠子さん、大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」

過保護にもあと数歩のソファまでエスコートされ、無事に着席すると今度は、少し身震いがしたのを見逃さなかったようで。

「冷えますか?」

優介が、私の耳もとでささやく。

ここに着く頃には雨は本降りになっていて、気温もグッと下がっていた。

「大丈夫よ」

桜木社長の手前、私は平静を装うとスッと姿勢を正す。

すると、ここまでのやり取りをつぶさに見ていたふたりが顔を見合わせた。

「沖田くんは秘書の鑑だね。秘書と言うか、まるで珠子さんのボディーガードかナイトみたいだ」

桜木社長は感心したように言った。
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