敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
依然雨は降り止まない。
車内で雨がバツバツと音を立ててフロントガラスを打ちつける様が、まるで矢のよう。

「寒くないですか?」

優介からルームミラー越しに目線を向けられて、ぼんやりとしていた私はハッとした。

「だ、大丈夫!」
「この雨で土砂崩れがあったみたいです。迂回しますね」

優介の平淡な声が、雨音にかき消される。

その代わりに奥口さんの言葉が、一字一句正確に頭の中で蘇った。

『沖田くんはいつも茅原さんのそばにいて、誰もふたりの間に割って入れなくて。沖田くんはほかの女子からも大人気だったのに、なんだかかわいそうでした』

無性に泣きそうになって、私はそっと目を閉じる。

いつも私のそばにいる優介は、かわいそうなのだろうか。

優介がうちの会社に入社する際、両親への恩を感じなくていいと伝えた。

『沖田くんは秘書の鑑だね。秘書と言うか、まるで珠子さんのボディーガードかナイトみたいだ』

もう大人なんだから自分の身は自分で守れる。

優介は自分の人生を好きに歩んでいい。
好きにしていいのに……。

私のせいで優介は、この先もずっと不自由な生き方をするの?

「まずいなぁ」

優介の独り言ちた声にハッとした。私は無意識に現実逃避していたらしい。
どうやら眠っていたようで、目を閉じてから三十分ほど経過している。

「どうしたの?」

目を擦りながら聞く。
ワイパーが最速でフロントガラスを行き来していた。

「土砂崩れで通行止めみたいです。何度か迂回してみましたが、これ以上は先へ進めません」

さほど緊迫したふうでもなく、優介は落ち着いた声色だった。

通行止め、これ以上進めないとなると、まさか車内で夜を明かすの⁉

「えっ、ど、どうするの?」
「近くにホテルがありますので、これから向かいます」

焦って早口になる私とは対照的な、悠長な物言いの優介は、滑らかな手さばきでハンドルを動かした。

「ホテル、そっか……」

私はホッとして、後部座席の背もたれに身を預ける。十分ほどでビジネスホテルに到着した。
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