あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
 
 「玲奈、この枝をみてごらん。ここだけ茶色になってるだろ。ここを切ってあげると、こういう風に新芽が出てくる。植物だってね、具合が悪くなることもあるんだ。でも、そこを切り落として新芽を出してまた生きていく」

 「もしかしてそれって、私のこと言ってるの?」

 「そう。ちゃんと休んで食べて寝ていれば新しい心の芽が玲奈にも出てくるはずだよ。今ここで、水やりや肥料をやるように、玲奈に私はご飯や飲み物をあげてるだろ。そのうち良くなるからね」

 そう言って、祖母は私を励まし続けてくれたのだ。 

 でも、それをしながら汗を掻くと嫌なことが忘れられた。

 不思議だった。
 育てた苗が大きくなって花が咲く。

 なんとも言えない気持ちになって、その咲いている姿をただ見つめているだけなのに幸せになれた。

 植物は私を癒やしてくれたのだ。

 今思えば、感謝しかない。

 そのおばあちゃんも去年亡くなった。

 屋敷はそのままになり、庭はどうなっているのだろう。
 今度の連休にでも見に行こうか、思い出していた。
 
 
 
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