あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
 
 「そうですか?私は、バーで出会っていなくてもおそらく城田さんのことを好きになれたと思います。でも、バーで見ていたときはこういうお仕事とは思ってもいなかった。筋肉隆々だったので、消防士とか自衛隊とか私の想像はその程度でした。でもいつもスーツを着てたから、謎ではありました」

 城田さんは頭を掻いて苦笑いする。
 
 「実は、前に付き合っていた人に土臭いとか言われてね。結構堪えた。でも好きな仕事を否定されてまで、付き合いたいとは思えなかった。女性に人気の、土臭くない職業の代表であるサラリーマンのふりをして、一時的にバーへ通ってみた。サラリーマンの動向を探ってたんだ。情けないだろ?」

 面白いことを言う。つい、吹き出して笑ってしまった。
 
 「ふふ。私はその偽サラリーマンに引っかかって、ずっと目で追ってしまって、バーテン君にからかわれてましたけど」
 
 「差し詰め、僕は詐欺師ってとこかな。上質なカモが引っかかったよ」
 
 「私はカモですか?」
 
 「そう、そのカモの出すフェロモンに引っかかったのは他ならぬ詐欺師の僕ってとこかな」

 コーヒーを飲みながら笑って話す。

 肩肘張らずに男の人と話が出来る。

 夢みたい。

 その人に告白してもらって両思いになるなんて。
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