あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 「俺のこと、土臭いってフったヤツがあいつなんだ。玲奈がかばってくれて、すっきりした」
 
 「そ、そうだったの……そう言えば名前で呼び合っていたからそうかなとはちょっと思ったけど」

 「付き合い始めの頃は、俺の仕事を褒めてくれて記事にも良く書いてくれてた。それが、親しくなるにつれ、汗臭いだの、土臭いだの言い始めてさ。結局、俺の体格が好きだったとか言われて。俺も馬鹿だよな。自分にないものに憧れて、自分を否定していることに気づいてもいなかった。でも良介に言われたんだ。誇りを持ってやっている仕事を侮辱するヤツはお前の相手じゃないって」

 「……」

 「良介も、油くさいとか言われたことがあったらしくて。でも、今の仕事に誇りを持っているから、すぐに別れたって言ってた。玲奈に出会ってから、俺、自分が好きになったんだ。玲奈のお陰だよ」

 「そんな……私も宗吾さんに出会ってから、人間関係が良くなったの。おびえていたのがなくなったらしくて、会社でも言われた。私もいいことだらけよ」

 ふたりで目を合わせてにっこり笑う。

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