あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い

 口元を上げてニヒルに笑う。

 え?冗談?
 
 「日高さん、彼女さんはいるんですよね?」
 
 「どう思う?」
 
 「え。それは、いないはずないと思いますけど」
 
 「どういう意味だろう?ま、褒め言葉として受け取るか」

 え、だから彼女さんはいるんですよね?

 なんで返事しないの?

 その後は普段の会社のはなしになった。
 
 美味しいコースを食べて、デザートが出てきた。
 
 「で、早瀬さんは彼氏が出来たの?」
 
 「……え、えーと、はい、いちおう」
 
 「ふーん。赤い顔して、そんなに恥ずかしいの」
 
 「私、そういうの慣れてないから。ダメなんです」
 
 「なにがだめなの?」
 
 「え?だからその」
 
 コーヒーを飲み終わると、日高さんが言った。

 「隣のビルの上にバーがあるんだけど、一杯だけつきあってよ」
 
 そう言われて、私の返事も待たずに、出口へ先に歩いて行ってしまう。

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