Filigran.


その夜もテスト勉強を進めて、気が付けば日付を回りそうになっていた


いつも私は何かに集中すると時間を忘れてしまう。


「うん、今日も頑張った」


そう言って勉強道具を片付けてから、卓上のランプを消す。


もう寝る準備は出来ているから、はやくベッドに入っちゃおう。


そう思って部屋の電気も消したとき、


どこからともなく音が聞こえた。



「え、なに、スマホ?」


震えるそれを見つめて、着信があることを知る。


何度目のデジャブでしょうか、弓弦君です。



「もしもし」


そう言って電話に出ると、


「…ごめんこんな夜中に。勉強してたよね」


と今にも土下座をしそうなほど申し訳ない声がする。


「ううん、ちょうど終わって寝るところでした。どうしたんですか?」と聞くと、


「あの、『おやすみ』だけ言いたくて」




…わぁ、本当に今日のヤンキーみたいな見た目してた人かなぁ。




あまりの可愛さに悶えながら、


「全然良いですよ」と答えると、「あと」と彼が続けた。



「勉強の邪魔したくないから、


雪乃の試験が終わるまでは会いにいかないようにする」



「でも、寝る前の電話だけしてもいい…ですか」





その言葉に私は思い出した。


いつかのラジオで少しだけ彼が零したことがある。


『基本眠りが浅くて悪夢を見やすいから、夜は好きじゃない』って。


私と電話して、たった少しでもそれが軽くなれば良いなって、


そうなるかなんて分からないけれど願ってしまう。





「…うん、もちろん」


そう答えれば、「ありがとう」と彼が嬉しそうに言う。


今、私の好きな微笑みを浮かべているのかな。





「…もうひとつだけ」


それは、もう長いこと誰にも強請れなかった


子供のような「もうひとつ」に聞こえた。





「もし良かったら雪乃に来てほしい場所、というかイベントがあるんだけど。」


「試験が終わったら聞いてもらってもいいですか」



そんな緊張したような声で言うから、


何かをお願いするときの君が敬語になる癖も発見してしまった。



「うん、聞きます」


「だから私の試験も応援しててください」






今こうして窓から見えるあの一等星が、


弓弦君にも、ちゃんと見えていると良い。






「ありがとう…おやすみ。」


「おやすみなさい」



日付が変わる。


こんな深夜に私たちの時間が少しだけ重なっていたことが、


やっぱり奇跡としか思えなくて。



私の頬に一筋、


想いが伝って枕に届いた。


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