愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「隣、いい?」

「あ、もちろんです。どうぞ」

自分のお弁当を少しずらしてスペースを開ける。
社長は躊躇いもなくそこに腰を下ろした。

我が社において、社長がレアな存在だとか高貴な存在だとか、そんなことはない。もちろん敬意はあるし誰もが信頼する素敵な社長だけれど、社長はいつも社員目線だし、私たちと一緒に仕事をするとても身近な人なのだ。

だけどやっぱり、それは仕事をする上での話であって、こういった砕けた場というのか無礼講もいとわないような雰囲気に社長が隣に座っていると、なんとなしにドキドキするというか落ちつかないというか。

「綺麗だな」

社長が桜を見上げた。
サラサラなダークブラウンの髪に桜の花びらが舞い降りる。
すっと通った鼻筋に切れ長の目。
モデルのような長い手足はとてもバランスがよく、容姿端麗とはこういうことを言うのかと思うほど。

「八重桜だから花びらのボリュームがすごいな」

「八重桜? 牡丹桜じゃないんですか?」

「ああ、どちらも同じ桜をさす言葉だけど、一般的には八重桜と言うんじゃなかったかな?」

「私と同じ名前だ……」

私の呟きに社長は小さく首を傾げた。

良く見るソメイヨシノは知っていたけれど、この、花がこぼれ落ちそうな桜の名前をずっと牡丹桜だと思っていた。敦子さんがそう言うから、そのまま牡丹桜として覚えていたのだ。
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