愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「八重桜って、名前は知っていたんですけど、牡丹桜の別名だとは知りませんでした」
ふわっと風が吹き抜ける。
柔らかな風は木を揺らし、たわわに咲き乱れる桜の花が重たげにしなった。
「八重桜の花言葉は、しとやかだとか理知だとか、前に本で読んだことがあったけど、幸山さんにぴったりな名前だと思う」
言うなり、社長はシートのすぐ横に落ちていたまだ散っていない小さな枝がついた桜の花を拾いあげる。花びらが幾重にも重なるそれはとても綺麗で、でもどこか可憐に儚く美しい。
「私の名前、やえって、八重桜が由来なんです。生まれたとき、八重桜がとても綺麗に咲いていて、それでやえって付けたって母から聞きました。だけど今までずっと八重桜を見たことがなくて知らなくて。でもこんなに近くにあったなんて感激です」
いつか見てみたいと思っていた八重桜。
小さい頃に、これがそうだよってテレビとか本で見せてもらった記憶はほんのりあるけれど、花の形とかは全然覚えていなかった。
叔父さんの家に住むようになってからはテレビなんて見せてもらえなかったし、家事に追われて調べることすら忘れていたから。
だからこんなに身近にあったことに感激で胸が震えるようだ。