ぼくの話をしようと思う



そこから別れまでは、あっという間だった。



キミにもらった紙にも書いてあったけど、未練が果たされると、自然に生まれ変わりコースに導かれるんだってね。



『だから、急がなくちゃ』



そう言って、中園さんは、昨日ぼくが泊めてもらった家の鍵と、ポケットからありったけのお金をくれようとしたんだ。



『こんなの受け取れません』



って言ったら、これは受け継いでいくものだからいいんだって言って、ぼくの手を取って、渡してくれた。



それから、ぼくに出会えてよかったって言ってくれた。



『彼女のところに一緒に行ってあげられないけど、がんばって。成功を祈ってるよ』



中園さんは、最後にそう言って、アヤ子さんと手をつないで、行ってしまった。






ぼくは、ふたりの後姿がうらやましかったよ。



アヤ子さんは中園さんに寄り添うように歩いてて、見た目の年齢差なんて感じさせない、まさしく「夫婦」の姿が、そこにはあった。



ぼくもあんなふうに、幸せに生まれ変わりたいって思った。






…彼女はあの事件の傷を乗り越えて、ここで女優としてがんばってる。



そして10年も、ぼくを待ってくれてる。



中園さんと同じ思いを、彼女にもさせているんだ。



早くその想いにこたえないとって思ってさ。



中園さんがいなくなって心細かったけど、一方でワクワクしたよ。



舞台挨拶の日まで、あと二日。



絶対に会ってみせるって、中園さんの後姿に誓ったんだ。










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