あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
「慎吾、奥方とご子息にはいつ会わせてくれるんだ? ひかるは奥方と同じ年頃だし、お前の子とウチの坊主も同じ月齢くらいだから、彼女も楽しみにしてる」

「まだだ」

 CEOに訊かれ、慎吾は速攻で応える。

「秘密主義もいい加減にしろよ?」

 どんと胸を突かれる。

「自分の嫁さんを『俺の妖精』とか宣言した挙句、隠してる男に言われたくないね」

 慎吾に突かれ返された隠岐は、唇に笑みを浮かべた。彼の奥方への溺愛ぶりも相当なものだ。

「吉報を待ってる」
「ああ」

 CEOとホテル支配人は右と左に別れた。

「里穂……」

 慎吾としては無論、無二の親友である隠岐に世界で一番愛おしい者達を紹介したい。

 CEOが言ってたように、彼の妻は里穂のいい友人になってくれるのではないかと、期待もしている。

 二人の存在を知らせたら、万歳三唱後に泣いて喜んでくれた両親にも会わせてやりたい。

 が、慎吾は両親について、里穂には隠していることがある。

「『お袋は八百屋のレジ打ちをしてて、親父が課長止まり』なのは間違いないんだが」

 母親は『美味しい野菜』という農園及び直売ショップの社長で、農学博士で土壌研究をしながら、客の顔が見たいとレジを打っている。

『あそこの野菜を使うことがステータス』という料理店も多く、エスタークホテルには大抵卸しているし、直売ショップも出店している。

 客が頼めば、好きな野菜を調理してくれるサービスが人気だ。

 慎吾の父親は、とある省庁の総合政策課課長のキレ者である。

 ……父親は隠岐の名前を捨てるつもりで妻の実家へ婿養子に入ったのだが、「結局俺は有名人の縁続きになる運命なんだな」と笑っている。

「まだ、だめだ」

 両親に紹介したら、彼らのキャリアがバレる。
 里穂は怯えるあまり、慎里を連れて逃げ出してしまうかもしれない。

「里穂がプロポーズをOKしてくれてからだ」
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