あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
「ひかるさんが和雅の時、つわりが重かったらしくて。……その、里穂は慎里を妊娠してたとき、大丈夫だったか」

 慎吾が心配している声で訊いてきた。

「私、眠りづわりだったから猛烈に眠くて。客室で寝ちゃった」

 ペロリと舌を出して告白すれば、なぜか「よし!」と褒められてしまった。

「あと、ホテル学校の授業に『障害者のお客様、妊婦のお客様対応について』というカリキュラムを充実させようと思っている」

 エスタークは日本のどこよりもオールバリアフリーを目指すつもりなのだという。

 隠岐CEOと慎吾の構想を聞かされて、里穂は目をまんまるくした。

「すごい……」
「里穂、妊婦の講師やってみないか」
「え」

 夫からの提案にキョトンとする。

「里穂はエスタークのスタッフレベルで判定しても、相当スキルが高い。我々経営陣も講師陣も、里穂を将来講師か『迎賓館』のスタッフ、どちらに採用しても問題ないとの判断を下している」

 自分が予想していたより高評価されたことは素直に嬉しい。

「とりあえず、妊婦の講師からだな。客室の使いづらさ、バンケットホールの不便なところ。ホテル設備内の使い勝手。チェックしてもらいつつ、スタッフにエスコートしてもらう役」

 夫の提案に驚く。

「あの。私、楽すぎない?」

 ところが、指導というのは大変なのだという。

「『怒る』のではなく『導く』が出来るスタッフはあまりいないんだ」

 慎吾の言葉に、里穂はやってみたいと言った。

「君なら出来る。……でも、教えるというのはかなり心身に不可がかかる。無理をしたら夫ストップをかけるからな?」

 本気でやりかねない彼に、里穂は笑ってしまった。

「過保護な旦那様ね」
「溺愛中と言ってくれ」

 慎吾の言葉に、慎里があーうと同意した。
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