あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 二人はキャンドルや雪洞に照らされ、芝生の上に敷かれたヴァージンロードを粛々と歩いた。

 同じタイミングで、パーティ会場の中の音楽がウエディングマーチに変わる。

 ガラス戸が開け放たれ、二人は入場を果たした。
 会場がどよめく。

 二人は周囲の耳目を集めながら、先ほどモンスターとエルフとして出ていったドアから再び出ていく。
 しずしずと、エントランスの大階段に向かった。何が起こるのかと、客が彼らのあとをついていく。

 ハロウィン仕様だったエントランスは白のリボンや花で飾られ、すっかりウエディング仕様となっており、里穂はヴェールの中から目を見張った。

 大階段の踊り場には、既に隠岐CEOが二人に宣誓を行わせる介添人としてスタンバイしている。
 CEOは顔半分を覆うマスクをつけて、足首までとどくマント姿。
 彼もまた、怪しくも優美な姿をしており女性の歓声を誘う。

 里穂はドレスの裾をもち、慎吾は一段一段彼女の足元を確認しながら登っていく。

 誰かが携帯を取り出すと、一斉に皆動画を撮り始める。そしてSNSで連携しているのか、パーティ会場から次々に人が出てくる。
 あっというまに大階段の周りが埋まった。

 二人は踊り場まで登りきると、CEOの前で止まった。

「この、佳き日」

 隠岐が重々しい口調で口上を述べると、しぃんと辺りが静まりかえる。

「フライマン・シンゴ、貴方はモンスターから人間の慎吾となり、彼女と生涯添い遂げることを誓うか」

「誓います」

 凛とした返事に、「あのモンスターの人?」「え、じゃあ花嫁さんは隣にいたエルフ?」というヒソヒソ声が重なる。

「エルフ・リホ。貴女は妖精から人間の里穂となり、彼と生涯添い遂げることを誓うか」

「誓います」

 震える声で言った。

「よろしい」

 隠岐は満足そうに首肯する。

「この二人が夫婦となること、ここにおられる皆様が証人である!」

 CEOはドラマチックに両腕を広げると、高らかに宣言した。

 拍手の嵐が沸き起こる。
 二階からスタッフがフラワーシャワーを浴びせる。
 ウエイターが銀盆に乗せたシャンペンをサーヴィスして回った。

「二人のこれからの幸せに、乾杯!」

 CEOの音頭に、居並んだ客たちが一斉に唱和してくれた。

 ……勿論、柱の影にいた深沢の両親や子供達、そして隠岐一家。
 何より、踊り場に花で囲まれた両親の写真が。

「感謝を込めて、花嫁からのブーケを!」

 慎吾が陽気に叫び、里穂は客達に背中を向けてブーケを放った。
< 223 / 229 >

この作品をシェア

pagetop