あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
「同時に、残っているスタッフと身の振り方を確認する為、個別ミーティングを実施した次第です」

 慎吾の言葉に初めて末端のスタッフとまで面談する必要があったのを知った。

 ――自分を探すためではなかった。密かに自意識過剰だったことに恥いる。

「意識とレベルが高い者は、エスタークの各ホテルに転勤。意識が高くてもレベルが至ってない者は準スタッフとして研修させることになりました」

 聞けば、スタッフには個人ミーティングの際に通達済み。

 自分はどうなるのだろう。
 何も聞いていない。……やっぱり、解雇されてしまうのだろうか。

 不安げな里穂の表情をみて、慎吾がメガネをはずした。
 すると、フライマン・シンゴになる。

「悪い。里穂は休憩室の入退室記録簿で癖字を見つけた時から、行き先は一つしか考えてなくて」

 どこだろう。
 クビにならなければ、どこでもいい。

 緊張から喉がカラカラになったが、なんとか言葉を搾り出した。

「それは?」

 彼は親指で自分の胸をとん、と指した。

「ここ」

 心臓を撃ち抜かれた気分だ。

 この男はどうしてこうもストレートに告げてくるのだろう。

 さっきからドキドキしっぱなしだ。
 なのに……、悔しいことに嫌じゃない。

 真っ直ぐな男の視線が正視できなくて、目をそらす。

 同時に、彼に隠し事をしていたことを思い出した。
 
 なし崩しに彼に愛され三人で幸せになってから露見すれば、自分だけではなく大好きな人や愛おしい我が子を巻き込んでしまう。

 
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