婚活
「ううん。本当に別に用事じゃないから。それじゃ……」
根性無しの私。
「珠美。待てよ」
走り出した背中に和磨の声を聞きながら、慌てて角を曲がり家へと急ぐ。馬鹿だ。何、やってんだろう。こんな事したところで和磨が不可解に思うだけなのに……。家の前で深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、勢いよく玄関の扉を開けた。
「ただいまぁ。うわっ」
閉めかけたドアを凄い勢いで開けられた途端、腕を誰かに引っ張られ、何事かと驚いて振り返ると、和磨が真後ろに立っていた。
「珠美。中途半端な言い逃げは、許さねぇ」
「和磨……」
和磨が腕を掴んで離さない。
「騒がしいわねぇ。珠美。何事?」
お母さん……。
和磨の声が聞こえたのか、母親が玄関まで出てきてしまった。
「あら、和君。いらっしゃい」
「あっ、おばさん。こんばんは。珠美をちょっと借りていっていいですか?」
和磨?
慌てて和磨を見ると私をチラッと見てすぐにまた母親に視線を戻したが、その視線はいつになく真剣で……。
「いいわよぉ。和君なら安心して貸し出せるわ」
「お母さん。貸し出すって、私はレンタルCDじゃないんだから」
会話が明後日の方向に向かっているけど、動揺していて何か言わずにはいられない。
「それじゃ、すみません。お借りします。珠美。行くぞ」
「ちょ、ちょっと、和磨」
和磨が腕を引っ張り勢いよく玄関のドアを閉めると、そのまま路地を曲がり歩き出した。
「な、何?和磨。ちょっと離してよ」
「いいから来いよ。俺に話しがあったんじゃなねぇの?」
和磨……。
「な、ない、ない。本当にないの。ただ……」
ただ和磨の顔が見たかっただけなんて、そんなこと恥ずかしくて言えない。ただ会いたかっただけなんて、今更、言えない。
「乗って」
エッ……。
「珠美。いいから乗れ」
声に圧倒され助手席に乗ると、和磨が車を発進させた。気まずい空気が流れ、何も会話のない車内。私から話し掛けるのも憚られ、運転席の和磨をそれとなくチラッと見たが、和磨はタバコを咥えたまま黙って前を向いて運転を続けていた。いったい何処に向かってるんだろう?
「和磨……。何処に行くの?」
「ん?奇跡の場所」
「奇跡の場所?」
和磨は目が合うと何故か意味深な笑いを浮かべ、そのまままた運転を続け何処かの駐車場に車を停めてサイドブレーキを引いた・
「珠美。降りるぞ」
「う、うん……」
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