婚活
嘘……。
時がゆっくりと過ぎていくように、隣りに座っている和磨が父親と母親に向かって頭を下げていくのが見えて、声をあげてしまいそうで慌てて両手で口を覆った。
「お父さん」
母親の声で我に返り、父親の顔を見た。和磨は頭を下げたまま、あげようとしない。
「和君なら、反対する理由も悔しいが見当たらないな。頭をあげなさい」
お父さん。父親の顔を見て、母親の顔を見て、そして最後に和磨の顔を見た。
「ありがとうございます。大切に育てられたお嬢さんを、今度は僕が大切にします」
和磨……。
「珠美をよろしく頼むよ」
「はい」
「珠美。良かったわね。和君に貰ってもらえて本当に良かったわ。売れ残ったらどうしようかと思ってたのよ?」
「お母さん!」
「さぁ、さぁ、和君。いつもと同じように、もうリラックスして」
「はい。それじゃ」
和磨は脱力感でいっぱいになったのか、ネクタイを緩めると一気にソファーの背もたれに 身体を預けた。
「珠美。顔洗って来いよな」
「えっ?あっ……うん」
和磨にありがとうと言い損なったまま洗面所で顔を洗って鏡を見ると、とんでもなく腫れぼったい顔をしていた。
「最悪……」
夢にまでみていた、彼氏が親に結婚の承諾を得に来るシーン。こんな大事な日だったのに、部屋着のままで腫れぼったい素顔なんて……。和磨も、昨日言ってくれれば良かったのよ。鏡に向かって不平不満をぶちまけてリビングに向かうと、和磨と裕樹が話しをしていた。いつの間に、裕樹起きてきたんだ?
「和磨と親戚かよ」
「お兄様と呼べ。お兄様と」
相変わらずな二人を見てうんざりしながらも、何故かホッとしていた。
「俺、出掛けてくるから」
「裕樹もいい加減、和君を見習って身を固めなさいよ?」
「ハッ?俺はまだまだ。和磨みたいに妥協はしないぜ」
妥協?
「裕樹!あんた、ちょっと待ちなさい」
何が妥協よ。裕樹の奴……。
朝ご飯を食べ終わり、和磨と一緒に部屋に入った。
「和磨。もう昨日言ってよぉ。そしたらこんな格好じゃなく……」
和磨が、いきなり立ったままキスをした。
「言えるわけないジャン。隣りで珠美まで緊張してたら、俺だってもっと緊張するだろ?」
「和磨……」
和磨はジャケットを椅子に掛けると、勢いよくベッドに寝ころんだ。
「このベッドで俺、いつも考えてたなぁ」
ベッドで考えてた?
「何を考えてたの?」
「ん?」
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