君がたとえあいつの秘書でも離さない
 「君の希望は弘に伝えた。だが、案の定聞く耳を持たなかった。時間が必要だな……特に匠君が失脚することがわかったので、君を囲い込むつもりのようだ。私はこんなやり方で君の心を得るのは無理だと最初からあの子に言っていたのだがね。実は、堂本社長とは長い付き合いだ。同じ業種で今回のことは正直噂が想像以上に広まっていて、この業種へのイメージも一緒に悪くなってしまった。後悔しても遅いが、弘を止められなかった私が悪い。君の退職は認めるよ。身体に気をつけてくれ。退職金もきちんと支払うから、依願退職として処理するよ。あいつには内緒でね」

 「ありがとうございます。取締役に内緒で姿を消したいので引っ越しもするつもりです。新しい連絡先は決まり次第お伝えしますが、振り込みなどは今まで通りでお願いします」

 「わかった……古川さん、すまなかったね。こんなことになるとは……。君が素晴らしい秘書なのは隆も知っている。あいつも申し訳ないと言っていた。嫁までを巻き込んでしまって、今になって遅いがね」

 良かった。分かって頂けた。
 社長の気持ちも嬉しかった。
 
 長い間この会社のために頑張ってきたつもり。
 ご褒美をもらえて、すっきり辞められそうだ。

 深々と頭を下げて、その場を後にした。
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