君がたとえあいつの秘書でも離さない
彼は顔を上に向けてはーっと息を吐いた。
「今日はここまでだな。明日もあるし。俺も明日からパリへ出張なんだ」
「そうですか。忙しいんですね」
「遙。ひとつ言っておく。石井兄弟には気をつけろ。兄の隆は俺にライバル意識がある。君のことを気づかれると君にちょっかいを出す可能性がある。弘君は君をずいぶん気に入っているようだ。それらしいことはなかったか?」
「……今のところはありません。ですが」
「なんだ?」
「実は……お付き合いをしていた社内の人から、付き合っていた当時、取締役に私のことでしょっちゅう声をかけられて、牽制されていたと聞かされたんです」
「……それは、秘書としてということなのか?弘君は結構策略家だ。実は隆より厄介かもしれない。口に出さないで考えて行動するタイプだ。石井コーポレーションは隆だけならどうということはないが、弘君がやっかいなんだ。うちもそれで気をつけている」