君がたとえあいつの秘書でも離さない

 なんだろう。
 いつもの弘取締役とちょっと違うような。
 何か昏い目をしている。

 「ええ、ちょっと待ち合わせをしようとしていたんですが、遅くなったので出ようかと」
 
 「そう。良かった。じゃあ僕と食事でもどう?プライベートとして」
 
 にこりと笑っているのだが、何か怖い。

 「どうなさったんですか?公私混同されないとおっしゃっていたのに」
 
 「だから、お互い今はプライベートだよ。そうだろ、終業後なんだから」

 突然、腕を引かれた。
 何?びっくりして一歩後ろへ下がる。

 「行こうよ。たまにはいいだろ?」
 
 「ですから、私は待ち合わせを……」
 
 もう一歩下がる。すると前に出てくる。腕を強く握られる。

 「遅くなったんだから、今日は断ればいいよ。ちなみに誰と約束していたのかな?あのビルから出てくる人を見ていたみたいだけど。あのビルが何の会社か知ってるんだよね?」
 
 「友人がいるんです」
 
 「ふーん。そう。さっき凝視していたのは秘書のほう?そうは見えなかったけど」
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