雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
俺に向けられた背中が遠ざかって行く。これで最後だと訴えて来る。
一方的に勝手なことを。
俺の気持ちは、何一つ言わせずに、勝手に俺から去ろうとして――。
腹立たしくて、怖くて、苦しくて、我を忘れて雪野を乱暴に抱き留めた。何度も抱いて来たその肩は、悲しいくらいに薄くて強張っていた。
「離してっ!」
「離さねーよ」
もがく雪野を力づくで押さえ込む。
雪野の匂い。今もこうして感じられるのに、あまりの恐怖に身が竦みそうになる。
髪をいつものように一つに縛っているせいで露わになっている首筋に、力のままに顔を埋める。今逃したら、永遠に俺の手には戻って来ない気がした。
「お願い、創介さん。私を苦しめないで。このまま行かせて。創介さんとはこんな風に別れたくなかった――」
「ふざけるな!」
後ろから縛り付けるように抱きしめる。
「勝手なことばかり言いやがって。俺はおまえと離れる覚悟なんかしてないんだよ!」
雪野の嗚咽が漏れる。俺が泣かせているのだと分かっている。でも、離してやることは出来ない。
俺のような男が、おまえのことを好きになってごめん。おまえを欲しいと思ってごめん――。
「俺には雪野しかいない――」
感情のままに言葉を紡ぐと、雪野が苦しそうに声を漏らした。
「あの人、創介さんの婚約者でしょう……? とっても素敵な人でした。そんな人を差し置いて、私は――」
「あの人にはもう全部言ってある。他に想っている人がいるって」
「そんな……」
雪野がさらに身体を強張らせると、身体中から力を振り絞るようにして俺の腕の中から離れた。
「雪野――」
「創介さん、私には無理です。あなたが生まれながらに持っている物、これから守って行かなければならないもの。創介さんを支えて、一緒に大きくしていけるのは私じゃない」
涙で溢れた目を真っ直ぐに俺に向ける。それは怖いほどに強い眼差しだった。
「それなのに創介さんが私を選んだら、必ず後悔する時が来る。創介さんも、それに私も。だから私は創介さんを選ばない。ここから先は私たちにはなかった。ここで終わりです!」
雪野が初めて見せた、俺への拒絶。
物静かだけれど、雪野の中には強くて太い一本の芯のようなものがある。だからきっと、その意思は固い。
いつも控えめだった雪野の、初めて見せる強い意思。それが俺への別れの言葉だった。
もう、誤魔化しようがないほどにはっきりと宣告されたというのに。俺では嫌だと言われたのに。
「それでも俺は、おまえを諦めない」
どんどんと小さくなっていく背中に向かって、往生際悪く叫んでいた。