雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
頭の中が真っ白になり呆然としたまま、凛子さんの元へと戻った。
「……申し訳なかった」
こんな場所に一人置き去りにしていたことに今更気付く。
「あの方……ですか?」
凛子さんが、酷く静かな声で問い掛けて来た。
「創介さんの大切な人」
「ああ……」
せっかく雪野があんな芝居をしたというのに、俺のせいで台無しみたいだ。
「今の創介さん、本当に酷い顔」
凛子さんが哀しげに笑う。そして俺に向けていた顔を、川の水面へと移した。
「あの方、なんだか少し、私の友人に似ていました」
「さっき言っていた、特待生の友人ですか?」
「ええ……」
凛子さんがふっと、力を抜くように笑う。
「ああいう人には敵わないわね。私とは全然違う生き方をしてきた人なんでしょう。私や創介さんのような人間とは違う視点を持って、物を見て来た方。だから惹かれる。哀しいけど、なんとなくわかります」
緩やかな水面を見つめる目が、少し伏せられた。
「創介さんの心を奪っている人を、この目で見られて良かった。きっぱり諦められます。どんなに頑張ってもだめだろうって分かったから」
凛子さんが少し明るい声を出す。
それが余計に彼女の痛みを表していた。
「どんな人か知らずにいたら、ずっと引きずっていたと思う」
凛子さんが自分に言い聞かせるように言った。
「さっき、あの方、咄嗟に嘘をついたでしょう? 使用人だなんて言って。きっと創介さんを想ってのことよね。自分よりあなたの立場を慮った」
「……そうですね」
俺も水面を見つめる。冬の寒さが嘘のように穏やかだ。
雪野のことを想う。
雪野ならどう考えるのか。雪野なら、どうするのか――。
雪野の考えていることを全部理解出来るとは思わないけれど、雪野がどれだけ優しい人間か、どれだけ自分ではなく他人を守ろうとする人間か、それだけは分かっている。
そうやって俺は、この三年雪野に守られていたのだ。
だから――。
最後の最後まで、雪野を諦めるわけには行かない。