雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
それから、凛子さんを自宅まで送り届けた。
「創介さん」
「はい」
タクシーが走り去った後、凛子さんが俺に振り向く。
「条件があると先ほど言いましたよね?」
「ええ」
「その条件のもう一つですが。創介さんにお聞きしたことすべて包み隠さず父に話させていただきたいんです。そのうえで、私がこの縁談をお断りする」
結局、凛子さんも傷付けることになってしまった。
「それによって、創介さんは私の父からもあなたのお父様からも責められるでしょう。それに、もしかしたら、あなたの大切な人にもご迷惑がかかるかもしれない。それでも、いいですか?」
「それは、承知の上だ」
それはすべて、俺が背負うべきものだ。
「凛子さん」
「はい」
真っ直ぐに凛子さんに向き合った。
「俺の方からも、きちんとあなたのお父さんにお話させていただこうと思っている」
「……そうですね。父は、創介さんのことをとてもかっていますから、納得させるのは大変だとは思いますが」
無意識のうちに大きく息を吐いていた。
凛子さんとともに、宮川家の日本邸宅へと入って行った。
「わざわざ送ってもらって悪いね。凛子、創介君とはゆっくり話が出来たか?」
大きな居間に通されると、満面の笑みで迎えられた。
「ええ。これまできちんとお話することがなかったので、今回いろいろとお話が出来て良かったです」
「そうかそうか」
凛子さんの言葉に、宮川氏が満足そうに娘を見つめていた。
「お話して、決めました。お父様、私、創介さんとは結婚しません」
「……何だって?」
宮川氏の細めた目が、一転、目一杯開かれる。
「僕から説明させてください」
宮川氏に向き合い、深々と頭を下げる。ぐっと足元に力を込めて自分を奮い立たせた。
「凛子さんにお話させていただきましたが、僕では凛子さんを幸せに出来ません。そんな男が、凛子さんと結婚するべきではないと思っています」
「それは、どういう意味だ」
見る見るうちに形相が変わる。
「僕には、ずっと想っている女性がいます。心に他の女性がいるような人間が、凛子さんと結婚するのは失礼なことです。もっと早くにお話するべきでした。本当に申し訳ございません――」
「ば、馬鹿なっ!」
呻くように叫ぶと、宮川氏は一呼吸おいて、今度はなだめるような口調で俺に言葉を発して来た。
「創介君。私も男だ。娘の前で話すようなことではないかもしれないが、大人の男がそれなりに経験しているのは当然のこと。付き合っていた女性の一人や二人いるだろう。でも、それと結婚とは別だ。結婚は未来だ。過去は過去として、この先凛子だけを大切に想ってくれればいいことじゃないか。過去のすべてを話せばいいというものではない!」
次第にその口調は怒りに満ちて、怒号になっている。
「それは、その女性が過去のものならばの話でしょう。僕にとって、その女性は過去ではありません」
「黙れ!」
宮川氏が、応接セットのローテーブルを勢いよく叩きつけた。