雪降る夜はあなたに会いたい 【上】


 スマホ越しの無機質な呼び出し音を聞きながら確信する。

雪野は、俺の電話に出るつもりはない――。

何度掛けても繋がらないスマホを、乱暴にジャケットのポケットにしまう。

 雪野のいそうなことろは、アルバイト先か、自宅か。

 土日はたいていアルバイトをしていたはずだ。休日の方が稼げるのだと聞いたことがある。あの川で俺と別れたあとに、バイトが入っている可能性もある。

可能性のあるところはすべて当たろう――。

雪野のアルバイト先に走り出した。

 雪野の働く飲食店の前で待つ。

 店舗の裏側に回ると、従業員専用出入り口と思われる所から誰かが出て来た。すぐにその人間を捕まえようと駆け寄る。

「……兄さん」

そこから出て来たのは、理人だった。理人に会うのは、ここで鉢合わせて強引に雪野を連れ出した日以来だ。

「こんなところで何をしてるんですか? 今日はお見合いのはずでしょう?」

理人が俺に向ける目は、今では冷めた怒りをたたえているだけ。表情一つ変えずに俺に向き合う。

「雪野は――」
「は? あなたって人は、どこまでおめでたいんですか。ここに戸川さんはいませんよ」

理人が一歩こちらに近づく。

「戸川さんとの関係はもう終わったんでしょう? あなたは宮川大臣の娘と結婚するんだから。兄さんは、いずれそうなることを分かっていて戸川さんとずっと関係を持って来た。こんなにぎりぎりまでずっと。あの人の優しさを貪るだけ貪って、結局最後は、他の女たちにして来たみたいに捨てたんだろう? なのに、今更どうして彼女に会いに来る?」

歪んだ笑みを浮かべ、心底軽蔑したような視線を俺に向けた。

「雪野は、今日、バイトじゃないのか?」
「分からない人ですね。辞めたんですよ。それもほんの数日前にね」
「辞めた……?」

四月に就職するまでは同じ店で働くのだと言っていた。辞めるだなんて聞いていない。

どうして辞める必要がある? 
突然、別れを切り出したのは何故だ――?

「僕には理解できない。あんたみたいな男にすべてを捧げた上に、四年間働き続けてきたここも、最後の最後急に辞める羽目になって。それでもあんたを好きだと言う――」
「辞める羽目になったって……?」

どうして――。

すべてが糸を手繰り寄せるるように繋がっていく。

雪野は俺が見合いすることを知っていた。
凛子さんを見て、俺の大事な人だろうと言った。

きっと、俺が知らずにいる何かがある。

そう思えば、居ても立っても居られず走り出していた。

「ちょっと、兄さん――」

まさか――。

頭に過った一つの仮定。
どうして、そのことに思いが至らなかったのか。自分の愚かさと能天気さに苛立つ。

倉内か――。

父の側近中の側近。ずっと昔から榊家の中のすべての事情を知っている男。父が直接何かをするわけではない。その命を受け実行するのは、倉内のはずだ。

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