雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
(僕たちはお互いに、それぞれに違う種類の苦しみを与えていたんだな)
「そうじゃない。おまえは苦しむ必要なんてなかったのに、苦しめ続けたのは俺だから」
継母と父とは違う。理人には何の罪もなかった。優しく純粋な心を、俺が歪ませた。
(……じゃあ、切るよ)
「ああ」
通話を切ろうとした時、再び理人の声がした。
(兄さん)
「なんだ?」
(戸川さん、幸せにしてあげて)
「……え?」
その声は、作り物の声じゃない理人の心の声のような気がした。
(以前、彼女の言葉に救われたから。あの人、本当に心の綺麗な人だ。それだけじゃない、真っ直ぐで強い人。だからこそ、何もかも自分の中で耐えてしまうような人なんじゃないかな。彼女のような家の人が、榊の家に入るのは簡単じゃないでしょ? 母親を見て来たから分かる。これから先、戸川さんにとっては決して居心地のいい家ではないだろう。だから、僕の母親のようにならないように、兄さんが――)
理人がこんなにも俺に言葉を尽したことはない。
必死になって訴えて来るのは――雪野のため、だからか。
そう思うと、醜く胸の奥が軋む。
雪野という人間を、理人もまた理解しているのかと思うと意味もなく苦い感情が生まれた。
でも、理人の言葉はどれも正しい。
「分かってる。俺が雪野を守るよ」
(……ああ。じゃあ)
今度こそ本当にその電話は切れた。
これはただの直感でしかない。
兄弟というほどの関係を築いて来たわけでもないのに、何となく感じてしまう。
少なくともあの頃、理人は雪野に対して、俺への復讐の手段としてだけではない感情があったのでは――。
窓ガラスに肩を預ける。
早く会いたい。雪野の笑顔が見たい。
そして、早く捕まえてしまいたい――。