雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
帰国する日、雪野と会う約束をしていた。
この日は特別な日になる。二年という時間を終わらせる日だ。そんな日だから、雪野を迎えに行きたいと思った。本当の意味で、雪野を迎えに行ける。
そこで、ある考えが浮かんだ。
成田空港に到着するなり、タクシーに飛び乗った。雪野の仕事が終わる時間より早めに着いて待ち伏せておかないと、雪野とすれ違ってしまう。
どんなに気が焦ったところで、タクシーの速度が上がるわけでもないのにどうしても心が急いてしまう。
久しぶりの日本の街並みに視線を向けても、考えることは雪野のことばかりで。
俺の顔を見た瞬間、どんな表情をするだろう。会えるこの日を、俺と同じように待ちわびてくれているだろうか。
俺の結婚の申し出に、もう一度頷いてくれるだろうか――。
二年前と同じ気持ちでいてほしい。
じわじわと緊張が押し寄せて来た。どんな大きな契約の前とも違う、この緊張感。
もう大抵のことでは動じたりしないのに、雪野のことになると俺は本当にダメだな――。
タクシーのドアに肘をついて窓の外を眺めながら、一人息を吐く。
そう言えば――。
窓の向こうの流れる街並みに目をやっていると、一軒の花屋を通り過ぎた。
今日が特別な日で、そして、本当の意味で雪野を迎えに行くというのに、何も持っていない。こういう時に気のきいたことなんてしたことがなくて、どうしたものかと思う。
結婚を申し込む時に男のやりそうなこと――。
たった今目に入った花屋ばかりが頭に浮かび、運転手に声を掛ける。
「すみません。途中にある花屋に寄ってもらえますか」
「はい。この先なら、いくつかありますので大丈夫です」
腕時計で時刻を確認する。花屋に寄っても間に合いそうだ。
花束なんかを持って立っている自分を想像するとなんとも言えない気分になるが、それで雪野が笑顔になるなら恥ずかしさも吹き飛ぶ。
それから少し走ったところにあった花屋の前で、タクシーが止まった。
「少し待っていてください」
タクシーを降りて花屋へと入る。
「花束を作ってほしいのですが」
「ご予算と何かご希望があれば」
そう聞かれて、またも困る。花なんて買ったこともなければ選んだこともない。
「どういったご用途ですか?」
考え込んでいると、店員が問いかけて来た。
「贈り物です。特別な日なので」
店員は一瞬呆気にとられたような顔をしたが、笑顔になって俺に聞いて来た。
「どんなイメージでお作りしましょうか?」
「――白で。真っ白な花束にしてください」
雪野の心を表したような、その名前にもあるように雪のまっさらな白さをイメージする。
「では、特別な日の贈り物なら、いっそのこと白い薔薇だけで花束を作ってはどうでしょう。素敵ですよ――」
「それで、お願いします」
つい前のめりになって答えていた。