雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
大きな薔薇の花束なんかを抱えて帰って来たから、タクシーの運転手が驚いたように声を上げた。
「お客さん、何かあるんですか? 市役所に薔薇の花束を持って行くお客さんなんて乗せたことないんで」
雪野の職場である市役所を行先に告げていたから、なおさら不思議に思ったのかもしれない。確かに、薔薇の花束とは結び付かない場所だ。
「まあ。大切な人を迎えに」
そう言って、笑って誤魔化す。
「あなた、見たところご立派そうだし。まるでテレビドラマみたいなだなぁ」
人の好さそうなその運転手が笑って言うと、車は再び走り出した。
確かに、少しキザっぽいか――。
俺には似合わないと、雪野は笑うだろうか。
それでも、この花束を持って笑顔を零す雪野を見たい。
久しぶりに会う恋人の、
どんな表情でも見たい――。
もう完全に雪野にやられている。
俺をこんな風に骨抜きにするのは、雪野以外にいない。
柄にもないことをさせるのも、こんなにも不安にさせるのも、その顔を思い浮かべただけで表情が緩むのも、雪野しかいない。
なんとか雪野の仕事が終わる時間に到着することができた。
――スーツケースと花束を持った男。
通りすがりの人にちらちらと見られるのも仕方がない。真っ白な薔薇の大きな花束は、より人目に付く。
念のために雪野に電話をしておくことにした。この日は俺との約束のために定時で仕事を終えると言っていたから、そろそろ外に出て来る頃だろう。
スマホを耳に当てると、すぐに雪野の声が聞こえて来た。
「まだ職場にいるんだな?」
分かってはいるけれど、それを真っ先に確認せずにはいられなかった。
(はい、これから出るところです)
雪野の答えに安堵する。
「分かった」
(これから待ち合わせ場所に向かいますね)
今か今かとその姿を探す。歩道のガードレールに身体を預けて、雪野を待った。
そうしていたら、同じように帰宅する職員の中に、足早に歩いて来る人の姿が目に入る。どれだけ久しぶりでも、その姿は、一瞬にして人並みの中から浮かび上がる。
ただ会いたいと焦がれ続けた愛しい人だ。