雪降る夜はあなたに会いたい 【上】


 翌日、いつもと変わらず授業に出席した。
 あのパーティーに私を連れて行ったユリさんを遠目に見た時、胸が軋んだ。結局私も、彼女と同じ立場の人間になってしまったのだ。何もかもを心から追い出して、ただ前だけを見て足早に正門へと急ぐ。

 正門にたどり着いたところで、息が止まる。

 正門脇にあの人が立っていた。あまりの驚きで立ち竦む。鋭いあの目が立ち尽くす私の存在を認めると、すぐにこちらに向かって来た。私は硬直したまま動けない。

「なんで何も言わずに帰ったりした? 一体、何のつもりだ!」

私の正面に立つと、怒りに満ちた目が私を射抜く。

「……どうして?」

やっと絞り出した声は、情けないほどに弱々しい。

「どうしてだって? おまえはこれっきりにしようと思ってたのか?」

声を荒げる彼をただ呆然と見上げた。

「勝手に消えるなんて、許さない」

どうして。目的を果たせば、もう何の意味も持たない存在のはずでしょう――?

全部分かっていて、この人に抱かれたのだ。ユリさんとこの人のやり取りだって、ちゃんと覚えている。あのパーティーで、逃げるように飛び出しても、耳に届いた声を全部理解している。

もう泣かないと決めたのに、目の前に突然現れた彼の顔を見たら、そんな決意なんてどこかに消えてしまったみたいに涙が溢れた。涙と同じように、抑えつけた想いが溢れ出す。

 涙を拭おうとした瞬間に、勢いよく抱き寄せられた。その時、自分のものではない心臓の音が耳に届いて。押し潰されそうなほどの強さで苦しいのに、苦しいのと同じだけ安堵する。

 それも束の間、すぐにここがどこかを思い出した。

「あ、あの、ここ、大学の前ですので……っ」
「あ、ああ」

その胸に手を置いて離れた。急に我に返れば、周囲からの向けられる視線が痛い。それに耐えられなくて、俯いてしまう。

「もう、授業終わったのか?」

身体を離したはずなのに、私の腕は彼の手によって掴まれていた。

「は、はい」
「じゃあ、これから時間――」

私の顔を見ようとする彼の視線から逃れるように、その声も遮った。

「すみません! このあとバイトで……」

もしかしたら、一緒に過ごそうと言ってくれるつもりだったのだろうか。そう思い至ると、急にそれが酷く惜しいことのよう思える。

「そうだったな。おまえ、いつもバイトしてたもんな」
「で、でも! バイトまで2時間くらいなら時間あります!」

前のめりになって叫んでいた。

――って、私、何言ってるんだろう。

「いえ、いいんです。すみません、そんな隙間時間みたなもの……」
「いや、いい。その時間を俺にくれ」

俯いていた顔を上げると、そこにはぎこちなく微笑む彼の顔があった。
 
 ひとたび何かを考えてしまえば、きっと躊躇ってしまう。だから、私を掴んでくれている彼の手のひらのことだけを考えた。

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