雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「この三年、俺は仕事に必死で余裕もなかった。雪野に何もしてやれていなかったからな」
「いいんです、そんなこと」
ダメだ、このままでは本当に泣きそうだ。
誤魔化すようにお酒に手を伸ばす。そして、一口でそれを全部流し込んだ。
「おい、さっきからちょっと飲み過ぎじゃないか?」
「平気です。美味しいから、飲みたくなるんです。今日くらいは、羽目を外してもいいですよね?」
そんなことを言っている自分が自分ではないみたいだけれど。そんなことすら、どうでもよくなってくる。
「……おい、大丈夫か?」
「はい、全然、問題ないです……」
身体が少し揺れる――。
いつのまにか、テーブルの上の器は全部綺麗に片づけられていた。
「問題ある奴ほど、そう言う」
溜息交じりの創介さんが、座る私の横に立ち顔を覗き込んで来る。
「見たところ、おまえはあんまり酒は強い方ではないみたいだ。もう酔っぱらってるだろ?」
身体中がフワフワとする。でも、意識はっきりとしている。いつもより気分が軽くなっているだけだ。
「酔ってません! ただ、すごく気分がいいんです。すごく楽しい。すごく、幸せ……」
顔の筋肉も緩んでいるのだろうか。いつもより簡単に笑顔になってしまう。
「……そんな顔しやがって。俺は、いい人間じゃないからな。酔っているからと言って配慮したりしない。どれだけ無防備な姿を見せてるのか分かってるのか? 少しは自分の身を心配しろ」
「だって、いいもん……。そうすけさんだったら、いい」
「お、おいっ……」
別の人格が乗り移ったかのように、創介さんの首に腕を回していた。
自分が誰かなんて、もうどうでもいい。
ただ、心のままに触れたい。心の声だけに従いたい。
「――やっぱり酔ってるじゃねーか」
「よってない、です!」
私はきつく腕を回しているというのに、創介さんは優しく私の背中をさするだけだった。
それが酷く心地よくて。甘えるように創介さんの胸に身体を寄せてしまった。
ふわりと身体が浮く。
「……姫は、手がかかるな」
優しい声と溜息が遠くで聞こえる。
瞼がとても重くて、そして、身体に感じる振動がゆりかごの中にいるようで。
創介さんの胸も腕も温かくて、私はいつの間にか目を閉じていた。