雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「雪野、何してる……?」
榊君の肩越しに、創介さんの姿が見える。
酷く疲れた顔をしていて、いつもどこか風格のあるスーツ姿にさえも疲労が色濃く表れていた。
雪の中、傘もささずに立ちすくんでいる。綺麗な青色のネクタイも大きく歪んで、これほどまでに弱々しく見える創介さんは初めてだ。
咄嗟に榊君を突き飛ばしていた。
その拍子によろめいた身体で、榊君がゆっくりと創介さんの方に振り返る。
「……どうして、理人と?」
顔色を失った創介さんから絞り出された声は、まるで呻き声のようで。
その激しい動揺ぶりに、どうして榊君を知っているのかという疑問よりも先に創介さんの元へと駆け寄ろうとした。
「創介さん――」
それを引き留めるように榊君が私の腕を引っ張る。
「戸川さん、行かないでっ!」
「雪野っ!」
真っ青な顔をして、創介さんが我を忘れたように私を呼んだ。
「雪野、来るんだ!」
勢いのままに私の腕を鷲掴み抱き寄せると、私を自分の身体の後ろへとやる。
「二度と雪野に近付くな。雪野にだけは手を出すな!」
地を這うような創介さんの低い声に目を見開いた。
声だけじゃない。冷たさの中に怯えのようなものを滲ませた目で、榊君を鋭く睨みつけていた。
「来いっ!」
力の限り腕を掴まれ、引きずられるように創介さんの後を追う。
その背中は怒りに満ちていた。いつも気遣うように私に触れていくれた創介さんはそこにはいない。
力任せに掴まれた腕は、軋むように痛かった。
どこへ向かっているのかも分からない。
「……待って。創介さん、待ってくださいっ!」
怖くなって声を振り絞った。ようやく立ち止まり、私に振り返った創介さんの表情は心をどこかに奪われてしまったようだった。
「乗れ!」
何も言葉はくれない。その代りに乱暴に創介さんの車に放り込まれる。
「創介さん、どこに行くの?」
運転席に乗り込んだ創介さんは、私をちらりとも見ない。何かに耐えるように唇を固く閉じ、ただ前だけを見ていた。自然と上がるスピードに恐怖を覚える。
「創介さんっ」
ただハンドルを握る創介さんに、私の声はきっと届いていないのだろう。私はただ助手席で身体を強張らせることしかできなかった。