雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
夜の道路を走り抜け滑り込むように止まった先は、いつか来た駐車場だった。
――疲れて一人になりたい時、よく来るんだ。
そう教えてくれた日の創介さんを思い出す。
急ブレーキの反動で、身体が一瞬浮いた。悲鳴を上げたようなブレーキ音が消えると、創介さんはハンドルに置いた両手に額を載せた。
「創介さん――」
「どうして、理人といた? 理人と、何をしていた」
呼びかけた声は、もうずっと聴いたことのない低く乾いた声で遮られた。
「理人って、榊君のことですよね? 十二月に新しくバイトとして入って来た人で。今は一緒に働いています。それだけです」
創介さんがハンドルから顔を上げる。
「じゃあ、あれは何だ? どうして抱きしめられていた? あいつに、何を言われた!」
狭い車内を創介さんの怒号が切り裂いた。こんなにも激しい怒りをぶつけられ、大きな声で怒鳴りつけられたのは初めてだった。
勝手に震えてしまう身体のまま、ただ創介さんを怯えるように見る。
「雪野、答えろ! どうして、何も答えられない?」
「そ、創介さん……っ」
運転席から創介さんの手が伸びる。乱暴に掴まれた肩は、あまりの力の強さに鋭い痛みに襲われた。
こうして会えたのはあの旅行の日以来なのに、目の前にいる創介さんは、ただ私に怒りをぶつけてくるだけだった。
でも、私の肩を掴む手が震えているのに気付く。
怯えながらも真っ直ぐに創介さんを見つめると、その目は酷く揺れ、怒りの裏に怯えがあるのが透けて見えた。苦しそうに呼吸を繰り返している姿は、むしろ何かを怖がっているようだった。
「創介さん……っ」
それが何なのか分からないけれど、抱きしめずにはいられなかった。
「創介さん、聞いて」
創介さんも震えている。抱き締めた瞬間にそれが伝わった。
その首にきつく腕を回し、創介さんの背中と頭を懸命に引き寄せる。
「榊君とはまだ知り合って一か月くらいなんです。私にとっては、一緒に働く仕事仲間です。それ以上の関係なんてない。だから落ち着いて」
私の声が創介さんに届いているのか分からなくても、何度もその濡れた短い黒髪を撫でた。
「雪野……」
乱れていた呼吸が少し落ち着いて、創介さんがぎこちなく腕を私の背中に回す。
それは、初めて抱きしめるみたいにたどたどしくて、私の胸を締め付けた。
「――悪かった。乱暴にして」
「ううん。大丈夫です」
創介さんの大きな身体が、しがみつくみたいに私を抱きしめる。
私の肩をそっと掴むと身体を離すと、肩を掴んだまま項垂れた創介さんから掠れた声が漏れ出た。
「……あいつに、好きだとでも言われたか? だから、抱きしめられていたのか?」
どう答えればいいのだろう。
こうして言葉に詰まることが答えになってしまうというのに、何も言えない。
「ごめんなさい――」
「いや、俺がおかしいんだ。俺には、おまえにこんな風に責める資格はないのにな……」
創介さんは俯いたままで、その表情を見ることはできない。自嘲気味に呟かれる言葉はそのまま私の胸に突き刺さる。
「二人の姿を見て、何かを考える前に我を忘れて取り乱した」
「創介さん――」
「おまえには、一番会わせたくない男だったから」
創介さんは、確かに榊君を見て『理人』と言った。創介さんは榊君を知っている――。
「――理人は、俺の弟だ」
私の肩から手を離し、運転席に投げ出すように身体を沈めた創介さんが、目を閉じてそう言い放った。
その言葉をそのまま受け取ることが出来なくて、ただ創介さんを見つめる。