雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「どうして理人が雪野といるのか混乱してる。あいつが雪野に何を言って、何をしたのか。それを考えたらどうしようもなく怖くなった。怖くて仕方ないんだ」
シートに背を預けて額に腕をやる創介さんの姿を見つめる。
「全部、自分がして来たことなのに。怖いと思うなんて情けねーよな。本当の俺を、おまえに知られるのかと思ったら耐えられなくなった」
額にあった手が創介さんの顔を覆う。
『おまえと違って俺は、ろくでもない兄貴だからな……と言うか、”兄”と名乗る資格すらねーよ』
二人で旅行した時、創介さんが零した言葉が脳裏を過る。
「俺は――」
薄暗い車内で、フロントガラスに積み重なっていく雪が膜となって次第に微かな明かりさえ失われ始める。
怯える創介さんを、隠してあげて欲しいと思った。
「創介さんっ」
創介さんの、投げ出されていた方の腕に手を伸ばした。ここに引き留めるみたいに必死に掴む。
「本当に、榊君からは何も聞いていません。榊君が創介さんの弟さんだったなんて、今、創介さんから聞いて知ったんです!」
気付けば私はそう叫んでいた。
大学四年生だってこと、狛江で一人暮らしをしているってこと。お母さんを心配していること――それしか榊君は私に話さなかった。兄である創介さんのことも、自分の家のことも、私には話していない。
私自身も「もしかして」とも思わなかった。二人が兄弟かもしれないなどと、頭を過ることもなかった。それほどまでに何も結びつかなかった。顔も雰囲気も、あの店でバイトをしていることも。何もかもが創介さんとは違う。
「私が知っている創介さんは、私が見ている創介さんだけです。それだけで十分です。これから先も、それだけでいい――」
創介さんが知られたくないと怯えて苦しむくらいなら、私は何も知りたくない。
知らないままでいい。
「おまえは、本当にバカだ。大馬鹿だ……」
それはまるで泣いているみたいに濡れた声だった。いつもみたいに優しい腕が、私を強く抱きしめる。
「おまえが知っている以上に、俺がどうしようもない男だったらどうするんだ。言葉にするのも憚られるくらい、汚れきった最低な男かもしれない」
「それでもいいです。私の中には、私の知っている創介さんがいる。もし、知らない創介さんがいるんだとしても、私の目の前にいる創介さんが消えるわけじゃない。創介さんは創介さんです。どんな創介さんでも私は――」
好きなんです――。
離れてしまわないように、力の限り創介さんの胸に顔を押し付ける。
「だから、苦しまないで――」
涙が零れ落ちるままに叫べば、創介さんが私の頭を両手で掴んですぐに唇を塞いだ。
それは、激しくて、感情をぶつけるような口付けだった。